2011年02月11日

ある達人の一言

写真の展覧会場、そこは紳士淑女の社交場であります。

私は来場者の立場なら仲間作りの場、と言ったこともありましたが、出展者にとってはお客さんからの反応をうかがえる大切な場でしょう。

ところで、とある写真団体の写真展がギャラリーで開催されていた時のこと。
出展者の友人S氏の作品の前でふと足を止めたベテランI氏の一言が気になりました。

「彼・・・苦労しているな。」

そりゃそうです。個展作家はこの日のために撮影から製作まで時間を削り、印画紙や薬品を消費し、やっとの想いで出展にこぎつけるのですから。
しかし、考えようによっては非常に意味の深い言葉です。

「うーん、かなり大変だっただろう・・・」

つまり、自分も写真作家として苦労のポイントはわかるし、意図する最終形に仕上げるまでは数々の困難を乗り越える必要がある、そういうことでしょうか。
S氏を良く知る私としては、ベテラン同士に通じる会話と見て黙って聞いていました。

私が後でS氏に耳打ちすると、彼は「そうか、あの人も解ってくれたか」というようなことを言っていました。しかし・・・・

制作に対する共感だけでこの言葉が出たのでしょうか。
考えようによっては、違う意味も含まれているような気がいたしました。

作品から苦労の内容が読み取れてしまう。

むしろ、こっちの解釈の方があてはまるようにも思えました。
つまり、難解な仕上げ、覆い焼きや焼き込みの難易度を乗り越えて作品を仕上げた共感に対しての言葉というよりは、長時間にわたって暗室に篭城してへとへとになって最終形にこぎつけたことがバレてしまうポイントもあるのです。

それは、現像液の疲労度。

通常、ある程度の枚数をこなせば現像液の疲労が進行し、それが写真に現れてくるものです。
でも作業している本人は気づかない。
覆い焼きや焼き込みで絵柄の調整に想いを込めるあまり現像液の疲労を忘れてしまっている、それが作品に出ているのを指摘された可能性もあるのです。

何日も暗室に篭城する・・・私にも何度か経験がありますが、自分の想いを作品制作に集中させようとするあまり、他の点がおろそかになってしまいます。
結果、それは作品に現れてしまいます。

「彼・・・苦労しているな。」

新しく現像液を溶いてからそこへ至るまでの時間、I氏はそれを共感していたのかも知れません。

仮の話ですが、S氏がそこに気づいて新液からやり直していれば、I氏は「ほう・・・」と言っただけかもしれませんが。
ま、それはそれとして・・・


作品に自分自身が現れる、それを理解できる人が見てくれる、そんな暗室モノクロがステキじゃないですか。





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posted by 暗室奉行 at 08:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 奉行の訪問記録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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